私は琉球大学の教員で、解剖学の教育と研究をしています。
 学生のとき私は海外青年協力隊に興味があり、海外水産開発研究会に入りましたが、
 協力隊とは無縁のまま大学を卒業しました。

2000年の春に1ヶ月間、協力隊の母体であるJICA(国際協力事業団、現在は
 国際協力機構)の短期専門家としてインドネシア共和国を訪れる機会がありました。
 5年も前の話になってしまいましたが、インドネシアでの体験を報告します。

 

 <インドネシア生物多様性保全計画>

 私が参加したプロジェクトについて簡単に説明しましょう。

 広大な熱帯雨林を持つインドネシアは、生物種数の多い(生物多様性の高い)地域として知られています。同国には地球上に生息している
生物140万種のおよそ20%に当たる、約33万種の生物が生息していて、無秩序な森林開発が行われ、多くの生物種がその存在を知られ
ることもなく絶滅しているといわれています。この多様な生物と、生物が生息できる環境を守ることを目的としてインドネシア生物多様性保全
計画が策定されました。

このプロジェクトは、動植物の研究・標本管理、標本データベース構築、国立公園管理、環境教育などの諸活動から構 成されていました。

 

<短期専門家としての仕事>

 私に与えられた仕事は、動植物研究のために日本から贈られた走査型電子顕微鏡(Scanning   Electron Microscope,  略してSEM)
の有効な活用法を指導するというものでした。具体的には、試料作製技術、観察法、写真技術、機械の保守  法などを教えてきました。

 

 <走査型電子顕微鏡(SEM)とは>

  SEMを少し説明します。この顕微鏡を一言で説明すると、虫眼鏡(ルーペ)や実体顕微鏡をものすごく高性能にしたもの と言えます。
小さな虫の体表の構造などを数十倍から10万倍位までの倍率で観察できます。試料は、真空中で電子線を 照射されるので、乾燥して
導電性を持たせる必要があります。水気の多い生き物の形を変えずに乾燥するのに、独特の方 法を使います。

 詳細な情報は下記のURLからも得られます。

 http://www.remus.dti.ne.jp/~kkkkwing/index.html(走査型電子顕微鏡の原理)
 http://www.asahi-net.or.jp/~qf7n-adc/
(走査型電子顕微鏡の試料作成方法と観察される像)
 http://www.mos.org/sln/SEM/
(Museum of Scienceの中にあるSEMのコーナー)

 

 <ピンチ!薬品や機材が届かない>

 JICAに必要な薬品と機材のリストを予め提出し、それらの薬品や機材を使ってSEMに関する技術講習を実施するように計画を立てていま
した。ところが現地に着いてから、薬品も機材も私の滞在中には一つも届かないことがわかりました。当初の計画は絵に描いた餅になってし
まいました。とりあえず薬品や機材を必要としない、SEMの操作や保守についての講習を始めることにしました。 薬品については、あれこれ
知恵を絞った結果、必要最小限のものを日本人長期専門家の日用雑貨の中に入れて急遽送ってもらうことができました。そして機材につい
ては、自動車で数時間の距離にあるJICA環境管理センタープロジェクトに類似の機材があることが判明し、それを使わせてもらいに行くこと
ができました。この様にして、予定していた内容を何とか全て教えることができました。

 携行品(JICAから注文・輸送してもらう予定だった薬品と機材)が予定通りに届かないことは、途上国ではしばしば起こることだとのことで
すが、実際我が身に起こってみると焦りました。出来ることだけをやるしかないと開き直りながらも、あきらめずに解決策を探し続けることの
大切さを痛感しました 。

 協力隊員として途上国で働いた、多くの海水研OBの皆さんの体験に比べればささやかなものだとは思いますが、多数の投稿の呼び水と
なることも願って、インドネシアでの体験を報告させていただきました。

インドネシアに行って来ました  

        
大倉信彦(15期)