「特別寄稿」棚田保全活動と生き物たち

 

 宮崎正之*・飯田悠太**・北村広志**・岩崎行伸***

はじめに:
水棲環境の一つである棚田は、日本各地で減少傾向にある。棚田とは、里山の傾斜地に石塊を積み重ねて棚状に作った、段丘状にある水田稲作のことである。農業は勿論、洪水を防ぐとともに水辺に棲む昆虫や生き物たちの繁殖・棲み家となっている。そこにはゲンゴロウヤメダカなど、私たちの周囲から姿を消しつつある水棲生物が生息し、現在その種の保護・保全を必要としている。傾斜地に積まれた石垣は、崖崩れなどの自然災害を防止する効果がある。こような棚田域を保護・保全の活動に推進・協力するため、私たち水棲環境研究会では、2002年度から静岡県菊川市上倉沢の棚田地で、農家の方たちだけでは管理・維持できない田んぼの田植え(2005年6月)と稲刈リ(2005年10月)作業に継続し参加した。里山の棚田域の復元作業などの活動を、棚田保全推進委員会の方たちと一諸に行った。そして、棚田域の周囲を流れる“小川”と“田んぼ”にて生き物の採集調査も兼ねた結果と感想について以下に報告する。


1)菊川/棚田・小川における生物採集結果(採集個体数) 

 No  種         6月       10月
(小川)    1
シマヨシノボリ  8 5
2 ウキゴリ 3 4
3 タモロコ 3
4 カワムツ 18
5 メダカ 25 20
6 ヤマトヌマエビ 1
7 アメリカザリガニ 6 11
8 シマドジョウ 3
9 ドジョウ 1 2
10 オタマジャクシ 4
11 ジャン゛タニシ 14 18
12 カワニナ 8 10
13 ニホンイシガメ 1
14 サワガニ 5 4
15 イモリ 7 5
(田んぼ)   16 トノサマガエル 1
17 ツチガエル 1
18 アマガエル 2
19 ヌマガエル 1
20 ニホンマムシ 1
21 カヤネズミ 1
種の確認はタモ網で採集。

2)田植え作業に参加して2005年6月4日(土)、朝早く大学に集合し4年生の先輩の車に乗せてもらい、棚田がある菊川市に向かった。そして上倉沢の棚田に着き、地元の子供たちに混じって田植えをした。僕は今まで田植えをしたことがなく、期待と不安でいっぱいであった。
田植えをして思ったことは、こんなに辛い作業を毎年しているということであり、その結果、後継人が減り棚田の数が減るのは無理もないと感じさせられた。その一方で小川にはメダカやサワガニ、アメリカザリガニ、イモリなどの多くの水棲生物を観察・採集し、改めて生態系の中における田んぼの重要性を確認させられた。そして田植えの体験が終了したあとに、前の年に刈られたモチ米で作った赤飯をいただき、とても美味しく食べることができた。

その後、菊川という川に行き生物採集を試みた。この日は、前日に大雨が降った影響だと思われるが、川の流れが速く濁っていたためにタモ網で生物(魚)を採取することがなかなかできなかった。しかし、その状況の中で私は草の際に網を入れると運よくオイカワの稚魚を採集することができた。とてもラッキ-だった。 今回の田植えボランティア活動を通して私は、棚田とその周辺の環境に生息する多くの生物に触れることができたことと、今まで体験することができなかったことを体験できてよかったと思う。

3)  稲刈り作業に参加して10月9日(日)、今にも雨が降り出してきそうな空模様だったが、運のいいことに雨は少しも降らず、逆に日差しが強くない絶好の稲刈り日和になった。電車を使って1時間ほどで棚田に着くと、今回の稲刈りも体験学習として参加している幼稚園児や小学生達が多く見受けられた。
保全委員会主催の方々が稲の刈り方や束にする方法について簡単な説明と諸注意をすると稲刈りが始まる。 必要最低限の水しか含んでいない田んぼの土にさつそく裸足で踏み込むと、泥の冷たさと絶妙な感触が伝わってきて心地よいような気持ち悪いような感じがした。その感触にも慣れたころ、いよいよ作業が始まった。稲というのは、田植えのときに苗の束から大体10本くらい摘んで植えたものであり、稲刈りの時には一つの束に6〜8本ぐらい生えていて、この束を鎌で切り取り20束ほどにまとめ、藁を編んで作った紐で根元近くを縛るという動作で1塊ができる。鎌で切るのとは違って、この紐で結ぶという作業は簡単ではない。子供たちは、大人にやってもらっていた。このようにして作業をしていくと、稲の間から昆虫やイモリや蛙などの水棲生物の姿が確認できた。珍しいものではニホンマムシや実際に今回見ることはできなかったが、カヤネズミもこの棚田には生息している。このような水棲生物は昨年の稲刈りの時に比べ、量的には若干多かったように感じた。 稲刈りが大体終わってくると、最後の作業として木の棒で組み立てた物干し台のようなものに、作った束の根を上にして丁度逆V字に掛けた。その作業が全て終わると、菊川市の棚田を管理している人たちが作ってくれたキナ粉餅をいただいた。作業をした後ということもあってとても美味しく頂いた。その後、棚田地の近辺を流れる小川に生物採集に向い、カワムツ(10〜15cm)やサワガニ・メダカなどを採集した。この小川は、コンクリ-トで舗装された所もあり、人の手の加わった場所であった。このような所でも多くの生物を採集することが出来たことで、私は改めてこの菊川市が自然溢れる場所であるとこを思い知らされた。今回の、この棚田保全のボランティア活動は好い条件が揃っていたため、これ以上ないぼど貴重な経験になった。ひとつ残念なことは、6月に行なった田植えに参加した人、自分も含め数人しか今回の稲刈りに参加できなかったことである。 去年と今年、私は田植え、稲刈りと両方に参加して思うことは、やはり自分の手で植えた苗は稲穂となったものを自分で刈り獲ってこそ、参加する喜びが倍増するものなのである。最後に、この棚田から学んだことは、むやみに自然を潰してその上で生きていくのではなく、手間はかかるだろうけれどこの菊川の棚田のように、自然と寄リ添って共存していくような方法を考えていくことが素晴らしい自然環境を残すために最も大切なことであり、それが環境保全をする理由なのだということである。だからこそ、これからもこの菊川の素晴らしい環境を少しでも守っていく手伝いができることを願い、この棚田保全のボランティア活動を継続し参加して行こうと思う。

謝辞
棚田保全活動に快く受け入れてくださった、菊川市棚田保全推進委員会に対し謝意を表する。

参考文献
1)  自然大博物館(1992):魚貝類、小学館.
2)
日本の淡水魚(2000):フイ-ルドベスト図鑑、学習研究社.
3)
日本の野生動物(2002):ヤマケイポケットガイド24.山と渓谷社.
4)
里山生きもの博物記(2003):山と渓谷社.
5)
日本の水生動物(2004):フイ-ルドベスト図鑑、学習研究社
6)200
4年度水棲環境研究会(2004):活動報告書、東海大学海洋、プリント.
7)200
5年度水棲環境研究会(2005):活動報告書、東海大学海洋、プリント.


*
水棲環境研究会部長、**水棲研、***里山景観と生きの研究